側弯症とスポーツ
側弯とスポーツの関係について考えてみましょう。
まず、前提として大きく分けて2つの側弯症があるということを覚えておいてください。
1つめは、これまで述べてきた学童期後半から思春期のお子さんに発症することが多い、原因不明の「特発性側弯症」を代表とするタイプ。
こちらは背骨一個一個の変形(椎体変形)を伴うことがある、すなわち骨の形自体に目に見える変化が生じてしまうもので、これを別の言い方をすると、
構築性側弯症
と言います。「構築」・・・つまり「つくり」自体が変形してしまった側弯症ということです。
2つめは、背骨一個一個を見ても変形はないが、その並び方のみ歪んでいるタイプ。これを、
機能性側弯症
と言います。多くは姿勢の異常によるもので、普段の姿勢で習慣的に悪いものがあったり、動きや構えにかなり偏りが生じてしまうある種のスポーツや仕事が原因となることが多いです。
また、ぎっくり腰などで痛くて体をまっすぐに伸ばせない!といった時も、この種の側弯が生じた状態と言えます。
総じて「原因」がある程度はっきりしており、その原因に伴いその代償として二次的に側弯になったものを言います。
こちらは原因がはっきりしている分、その原因が取り除かれれば、側弯も元に戻ることが多く、たとえば原因となっていた悪い姿勢を改善したり、原因となっていたスポーツをやめたり、原因となっていたぎっくり腰の痛みがなくなったりすれば、曲がっていた背骨も元のまっすぐに戻っていくということです。
ただし、戻る、と言っても、その習慣が長く強く深く影響し続ければ、しまいには背骨の変形にまで至り、構築性側弯症になることもあるので注意が必要です。
さて、もしお子様が特発性側弯症と指摘された場合、何かしらのスポーツをやっていたとして、それが原因か?あるいは影響があったか?と言われると、
その答えは、「何とも言えない・・・」というのが正直なところです。
先にも申し上げた通り、特発性側弯症は「遺伝的素因や傾向はあると思われるがそれ以外の環境因子なども複雑に関係する多因子病」と考えられます。
スポーツが環境因子として影響したかどうかは微妙なところです。
よほど高度なレベルで幼少のころから繰り返し繰り返し体の形が変わるまでそのスポーツを行ったのであれば、影響は無視できないものとなるでしょう。しかしそれすらも個人差があるので決定打とはなりません。
決定打とはなりませんが、第49回側弯症学会において、慶應大学の渡辺航太先生の「思春期特発性側弯症の発症に関与する環境因子の同定」という論文に、2012年から2014年の側弯症二次検診に該当した中学女児3028名を調査したところクラシックバレエ、バスケットボール、バドミントンで有意な差が認められた、というデータがありました。
その他、水泳やバレーボール、フィギュアスケートなどでもやや影響があるのでは、という別のデータもあります。
これらのスポーツに共通して言えることは、
・幼少のころから始めることが多い。しかもかなり熱心に。
・ラケットスポーツはもちろんバレエやフィギュアスケートも同じ方向への回転への偏りがある。
・サッカー、野球が入ってない分、男児より女児が行うメジャースポーツが多い。
などでしょうか。
確かに現代のスポーツは、始める時期は特に重要で、より幼いころから習熟することで将来大きなアドバンテージを得ることも多いでしょう。そういう狙いがあってのことなのか、幼少から始めるくらいだから保護者もそれなりに熱心で、一般人では考えられないような練習量をこなしているケースも少なくありません。
それは、やはりそのスポーツに特化したバランスへの変化・・・一般的には不自然な歪みに行き着く可能性があります。
そこに遺伝的素因があったとしたなら、もしかしたら特発性側弯症の大きな発症リスクとなっているかもしれません。
つまり今、警鐘を鳴らせるとしたら、親兄弟、祖父母などに複数の側弯症の方がいて、そういうお子さんが上記のようなスポーツを、高度なレベルで行ってしまうと、もしかしたらリスク高いかも・・・ということです。
もちろん無限の可能性のあるお子様の芽を摘むようなことはしたくないですし、好きなスポーツを好きなだけやるべきなのですが、少しだけ頭の片隅に置いておいて、リスクと秤にかけながら他の可能性も一緒に模索してあげられるように柔軟に構えていた方がいいのかな、と思います。
あくまで私見ですが。